”仕事・職場・従業員の新たな関係とは” 【連載】Fjord Trends 2021 をデザイナー自らが読み解く #03「新しい時代の組織のあり方」編
皆さん、こんにちは。Fjord Tokyo デザインリサーチャーの杉田 麻耶です。
2020年、オフィスワーカーの働き方、勤め先の企業との関わり方は大きく変化しました。在宅勤務により作業効率が高まったり、時間の使い方が柔軟になったりと、従来の働き方にはなかった自由を手に入れた一方で、雇用者との関係の変化に伴い多くの問題が生まれたのもまた事実。
今回ご紹介するFjord Trends 2021のトレンド3「新しい時代の組織のあり方」はそんな私たちの働き方や企業と従業員との関係の変化に注目したトレンドです。主語が「従業員」であるため、自分ごととして捉えてもらいやすいトレンドではないしょうか。Fjord Trends 2021が公開された際にも、多くのオフィスワーカーの皆さんがこのトレンドについてTwitter上でリアクションされていたのを目にしました。
本記事では、トレンド3の概要をレポートには載っていない日本での事例を交えながら紹介していきます!
自宅のオフィス化
多くの従業員が在宅勤務への切り替えを余儀なくされた結果、「自宅のオフィス化」とも呼べる現象が起こりました。
これまで、自宅はファーストプレイス、職場はセカンドプレイスと全く異なる空間として定義付けられていました。自宅はプライベートな空間として安心感を提供したり、家族とのリラックスの場としての役割を担ったりする一方、職場は仕事の作業や同僚とのコミュニケーションの場としての役割を果たしていたのです。
しかし、パンデミックを起点とした働き方の変化により、この場所と役割に変化が生まれました。今まではプライベートな空間だった自宅に、仕事をするためのスペースが必要になったのです。机や椅子などを用意した結果自宅が窮屈になり、引越しされた方もいるでしょう。
仕事中に周りにいる人が同僚から家族になったことで、もはや「オフィスの中で家族と暮らすような感覚」で毎日を過ごされている方も多いでしょう。子どもの世話で作業を中断したり、テレビ会議がパートナーと重なって部屋を移動したり。同居人がいなくても工事や声といった住宅街での騒音に悩まされる等、オフィスで働く時には経験しなかったストレスを感じた人もいると思います。
チームへの帰属意識の低下
企業に対する意識の変化も起こっています。今までは会議がなくともオフィスですれ違った同僚と雑談する機会がありましたが、そのような機会は激減しました。仕事の進め方も個人の作業を持ち寄るようなスタイルが増え、チームでコラボレーションする機会が減ったという方も多いのではないでしょうか。
リクルートキャリアの実施したアンケートによると、テレワーク実施前に比べ、実施後に「働くモチベーションの低下」がみられ、さらに「テレワーク実施後にチームの仕事が減った」という人に限ると「働くモチベーションの低下」がより顕著に現れたそうです。(参考記事:
https://www.recruit.co.jp/newsroom/recruitcareer/news/pressrelease/2020/201222-02/)
また、福利厚生から受けられる恩恵が減ったという声も多く聞こえます。従来の福利厚生はレジャー施設や社内のマッサージスペース等、「自宅のオフィス化」により実際には利用できない状態が続いています。
このように、勤め先の企業や同僚との関係が希薄になったことで、チームへの帰属意識が低下しています。そんな中、企業が従業員に提供すべきものは、仕事に必要なシステムを自宅からでも使えるようにするといった機能満足だけではなく、今まで会社にいることで形成されていたチームへの帰属意識を再構築するといった心理的満足です。
ここからは、これらの課題に対して日本企業がどのように取り組んでいるのかをご紹介したいと思います。
離れていても企業文化やビジョンを浸透させる
クックパッドでは、Slack上に「#リモート昼ごはん」のチャンネルを立ち上げ、チームメンバー同士が自分のランチを投稿するという試みでオンラインでのコミュニケーションを活性化ました。以前から社内のキッチンで自炊する文化があり、そのオフィス内でのゆるやかなコミュニケーションをオンラインで再現したものです。自分の所属する企業らしさを感じつつ、雑談の機会を自然に生み出す素敵な取り組みですね。
(出典:クックパッドの在宅勤務環境https://techlife.cookpad.com/entry/2020/02/21/130002)
健康に特化し従業員との新しい繋がりをつくる
終日モニターと向き合う生活は身体の健康にも影響を与えました。私自身も運動する機会を意識しない日は歩数が1,000歩以下、会議が続けば食事はコンビニやウーバーイーツばかり。我ながらひどい生活送ってるなと感じますが、きっと同じような生活をしながらこのままでは駄目だと思っている方が読者の中にもいらっしゃるのではないでしょうか。このような課題に応える、健康に特化した福利厚生サービスが注目を集めています。
利用者の日々のカラダや生活に合わせてパーソナライズされた野菜を毎月自宅に届けるサービスを提供するGREEN SPOONは、コロナ禍に法人向けの福利厚生プログラムを開始。この福利厚生プログラムを導入することで、企業は野菜を通じて従業員の健康をサポートすることができます。
個人的に福利厚生サービスで提供されるプロダクトにはおとなしく真面目な印象を抱いていましたが、こちらはデザイン性のある映えるパッケージで手に取ってみたいと感じました。パーソナライズされたメニューからは「今回何が届いたの?」とチームコミュニケーションが生まれそうですね。実際職場にも利用しているメンバーがいて盛り上がりました!
(出典:リモートワークの食事はスムージーやスープで簡単・楽しく・健康に。在宅勤務中の従業員向けに「GREEN SPOON」が福利厚生プログラムの提供を開始!https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000013.000055700.html)
経済産業省は国民の健康寿命の延伸に関する取り組みの一つとして「健康経営」をコロナ以前から掲げており、企業も生産性向上・離職率の低下等の効果があることから健康促進サービスを積極的に導入してきました。コンシューマー向けにも展開されている運動習慣・ストレス対策をサポートするアプリ「BeatFit」は、福利厚生サービスとして提供できる「BeatFit for BUSINESS」を用意。従業員はアプリを通して様々なフィットネスプログラムを受講することができます。
(出典:従業員の運動不足をアプリ1つで解消 BeatFit https://www.beatfit.jp/b2b/)
企業にとっては、従業員に接する機会が激減し健康状態を把握することが難しい中で心身のケアを遠隔でサポートできますし、従業員にとっても自宅で気軽にフィットネスができ、運動不足を解消しスッキリした気持ちで仕事に励むことができそうです。現在はコロナ禍での運動不足を解消するコンテンツも追加されているようです。
最後に
私達は今、未来の仕事の姿をプロトタイピングしていく時代に突入しました。ですが、チームへの帰属意識を醸成する「万能の解決策」があるわけではありません。企業やチームの「らしさ」を軸に、従業員が企業との繋がりに感じる価値を企業ごとにカスタマイズしていかなければなりません。まずは自分たちの企業やチームを振り返り、コロナ以前に比べ「らしさ」が実現できているのか?という問いを起点に考えてみませんか。
フルレポートではトレンドをより多面的に解説、海外事例も紹介しており読み応えがあります。ぜひこちらからご覧ください!
筆者プロフィール
杉田 麻耶
Design Researcher
HCD-Net認定 人間中心設計スペシャリスト
主にデザインリサーチやワークショップファシリテーションの業務に従事。
生活者や従業員を対象にしたリサーチや、サービスデザイン人材の育成等に関わった経験あり。ユーザーの生活に溶け込むサービスを生み出すため日々奮闘中。趣味は食。特に寿司好きです。
【連載】 Fjord Trends 2021 をFjord Tokyoのデザイナー自らが読み解く
・Trend 00 メタトレンド 「新しい領域の地図づくり」編
・Trend 01 「歴史的転換期」編
・Trend 02 「DIYイノベーション」編
・Trend 03 「新しい時代の組織のあり方」編(本記事)
・Trend 04 「インタラクションの旅立ち」編
・Trend 05 「流動的なサプライチェーン」編
・Trend 06 「共感への挑戦」編
・Trend 07 「リチュアルの消失と創造」編
Fjord Tokyo公式Instagramアカウント: @fjord.tokyo
Fjord Trends 2021日本語版はこちら。
Fjord Tokyoではデザイナーを積極的に採用しています。詳細はこちら。