"2021年が21世紀を再定義する” 【連載】Fjord Trends 2021 をデザイナー自らが読み解く #00 「新しい領域の地図づくり」編
みなさん、こんにちは。Fjord Tokyoのサービスデザイナーの郷上です。
突然ですが、「未来予測レポート」と聞くと何を思い浮べますか?まずはAIやIoTなど、テクノロジーのことが頭に浮かぶ人も多いのでは。
テクノロジーは確かに重要である一方、我々デザイナーは、テクノロジーが人々の生活をより良い方向へと推し進めてこそ価値が生まれると考えています。であれば、テクノロジーではなく人間や生活を起点とした未来予測が存在しても良いはず。
人々の価値観や生活、またその集合体である社会はどのように変化していくのか。未来においてテクノロジーはどのように用いられ、その提供者である企業はどのような役割を担うべきなのか。我々Fjordが毎年まとめている「Fjord Trends(フィヨルドトレンド)」は、そんな疑問に答えるレポートです。
世界中で活動するデザイナーの知見を集約するFjord Trendsは、英語で執筆されます。しかし、ただ翻訳するだけでは日本市場に役立てていただくのに不十分なことは無視できない事実。そこで、Fjord Trends 2021の日本語版発行に携わったFjord Tokyoのデザイナー自らがそれぞれのトレンドをいかに日本に向けて解釈したかについてご紹介する連載を始めたいと思います。
題して【連載】Fjord Trends 2021 をFjord Tokyoのデザイナー自らが読み解く。これから4週連続で火曜日と木曜日に公開予定です。
第一弾となる本記事では、Fjord Trendsの基本、そしてFjord Trends 2021の全体を表すメタトレンド「新しい領域の地図づくり」についてご紹介したいと思います。
Fjord Trendsの基本
読者の皆さんの中には、そもそもFjord Trendsについてあまりご存知ない方もいるかと思います。そこでFjord Trends 2021の内容に入っていく前に、Fjord Trends そのものについて簡単にご紹介します。
Fjord Trends とは一体何か?
一言で言うと、「世界で活躍するFjordメンバーたちが各国の知見を集結し、ビジネスやテクノロジー、社会、デザインに関する予測をまとめたレポート」のこと。2008年から毎年発表しており、今年で14回目になります。
上記の人間起点という視点に加えて、時間軸として10年や20年というロングタームではなく、3-5年という「ちょっと先」の未来を見通しつつ翌年のトレンドを予測していることも特徴の一つ。未来過ぎず現実過ぎない時間軸は、デザイナーやビジネスパーソンなど多くの人に「自分ごと」として捉えられ、世界中の多くの人々に読まれています。
どのようにFjord Trendsを作っているのか?
ではそんなFjord Trendsはどのように生まれるのか?それを表したのが上記の図です。まず、世界中で活動するFjordのデザイナーが日々の仕事から得た気づきや世の中の観察を通して、それぞれの地域から普遍的であろう変化の兆しを見出します。その後、グローバルの全スタジオがそれぞれのトレンドを持ち寄ってプレゼンし合い、その結果を集約。それらの知見を更に分解し、再構築する。
このようにして、観察を通して見つけ出したそれぞれの地域におけるトレンドの種を、世界全体を主語とするトレンドへと昇華させていきます。制作の過程はデザインリサーチのグローバルなクラウドソーシングそのもの。このHowパートだけで一つの記事が書けそうなくらい濃いので、要望があれば別記事でご紹介したいと思います。
(Designship2020に登壇した時の様子)
Fjord Trends 2021
それでは、ここからは本題であるFjord Trends 2021のメタトレンドについて解説していきたいと思います。Fjord Trends 2021は7つのトレンドによって構成されています。今回ご紹介するメタトレンドは、すべてのトレンドを包括し一本の糸で繋ぐもの。Fjord Trends 2021全体としての主張が盛り込まれているといえるでしょう。
メタトレンドは「新しい領域の地図づくり」
そんなFjord Trends 2021 のメタトレンドはずばり「新しい領域の地図づくり」です。筆者が最初に読んだ時の感情は「なんとなく言わんとしていることはわかるが、他人にうまく説明できるかというと悩ましい」でした。同じような気持ちを読者の皆さんと共有していると信じて、原文のニュアンスを壊さない範囲で解説を入れていこうと思います。
背景にあるのは人々の行動と思想の変化
一番の背景にあるのは言うまでもなく新型コロナウイルス感染症です。未曾有の事態により、私たちの生活は一変させられることになりました。働き方、学び方、買い方など、生活のありとあらゆるシーンで思想と行動を変えざるを得なったことは、読者の皆さんも身をもって経験されたことと思います。そんな世の中の様子をレポートではこのように表現しています。
“それはあたかも、見慣れた近所の街角に立っていたら、瞬く間に何者かが辺りの地図を書き換えてしまい、気付けばいつもの街が消え失せ、後には慣れ親しんだ景色を切望するあなたが残されているようなものです。(FJORD TRENDS 2021 より)
既に限界だった既存のシステム
一方、新型コロナウイルス感染症によって社会や生活の変化の方向が変化したかと問われればそういう訳ではありません。事実、去年のメタトレンド「原理原則の再考」は、既にこれまでの価値観の再定義を示唆する内容となっていました。
パンデミックの前から、社会や生活を構成している仕組みは既に限界を迎えていたのです。例えるならば、今までの変化の方角が「北」だったとすればパンデミックはそれを「南」へ方向変換させるような事象ではないということです。
パンデミックによって増した変化のスピード
では、このパンデミックは未来にどのような影響を与えるのか。それは変化のスピードを加速させたことにあります。既存の仕組みを客観的かつ批判的に見直す強烈なドライバーとなり、それぞれが本質的な価値を問うきっかけになったのです。その結果、21世紀に適さないにも関わらず未だに残っている時代遅れなシステムの存在がより明白になりました。これをレポートでは以下のように表現しています。
パンデミックは2020年のメタトレンドとして予測した「原理原則の再考」を加速したに過ぎず、私たちが頼りにしている各種システムを一層強力な光で照らし出しました。それにより、これらのシステムは時に壊れていることがあり、不平等なものも多数存在するということが明らかになり、その結果として、21世紀の課題に適さないことが明白になったのです。 (FJORD TRENDS 2021 より)
人々の行動変化をドライバーとした世界的なシステムの転換
これにより、人々とシステムの関係にも変化が生じました。これまで指針としていたシステムに欠陥があったり、不平等であったりということを目の当たりにした私たちは、自らの役割やコミュニティの重要性について見直すと共に、自分の行動の1つ1つがそんなシステムに対して影響を及ぼせることにも気付いたのです。
つまりそれは何を意味しているか。危機に対処するために起こった人々の行動の強制的な変化が時代遅れの既存システムを壊し、新たなシステムを生み出していく、そんな人々の行動変化をドライバーとしたシステムの転換が世界で同時多発的に起こるということです。そして、それらがどんな形で現れ、システムがどのように破壊され新しく生まれ変わるのかをより具体的に示しているのがトレンド1-7になります。
行動変化を起点とした機会領域の捉え直し
時代の変化によって発生した様々な課題に対して、人々は行動や思想を変化させました。しかし、それはあくまでも反射的な対応に過ぎず、自らを客観的に捉えられている人は少数でしょう。人々は解決策を考える専門家ではないからです。だからこそ、企業には様々な提案を通して、そんな人々を支援するチャンスがあります。上述した通り、人々の行動や思想の変化はこれからの未来を形づくる為のヒントを示しているのです。
社会に浮き上がってきたイノベーションの種の拾い上げ
企業には変化の本質的な意味を捉え、顧客と共に適切な解決策を共創することが求められています。それは、社会に浮き上がってきたイノベーションの種を拾い上げ、今後どのように発展させていきたいかを検討する必要があるとも言い換えられるでしょう。企業は不安定な経済下で生き残りをかけて戦うのはもちろんのこと、価値観の変化に伴って発生している課題への対処が求められています。
それはつまり、企業として生き残るための耐久性と、時代の変化に対応するための俊敏性が同時に求められているということ。この時代を勝ち残ることができるのは、一度バラバラになった人々が再び1つにRe-Unite (つながる)ことを可能にすることで顧客から支持される企業です。
企業のレジリエンス(耐久性)とアジリティ(俊敏性)が究極の試練を受けており、勝ち残るのは人々に居場所を与えることのできる企業です。(FJORD TRENDS 2021 より)
2021 Will Redefine the 21st Century - 2021年が21世紀の行く末を決定付ける
パンデミックによって生まれた私たちの行動や思想の変化は、社会を更に発展させるであろう新たな領域を光で照らしています。中には楽観的な未来が想像できる領域も不安な未来がみえる領域もあるでしょう。そんな新しい未来の領域は、未開拓だからこそ、いまの私たちの手に委ねられています。
そんな未だ見ぬ領域の開拓には、実験、試作、学習を繰り返す探索者としてのマインドセットが求められるでしょう。このサイクルを繰り返しながら、新たな領域を開拓し、私たちの住みたい世界に到達するまでの道順を描くのです。それはつまり、「新しい領域」における「指針=地図」を生み出していくということ。だからこそ、2021年のメタトレンドは「新しい領域の地図づくり」と名付けられているのです。
有史以来、新しい思考の時代は世界的な危機の後にはじまっています。私たちは今まさに、自分たちが望む21世紀ルネサンスのあり方を決めるチャンスを手にしているのです。(FJORD TRENDS 2021 より)
最後に
いかがだったでしょうか? Fjord Trendsの基本情報とFjord Trends 2021のメタトレンド「新しい領域の地図づくり」についての解説は以上になります。抽象的だからこそ思考の余白が読者それぞれに残されているのもFjord Trendsの特徴。読者の皆さんの感想や解釈もぜひコメント欄に残していただけると嬉しいです。
次回からは、いよいよFjord Trends 2021の日本語版制作を担当したFjord Tokyoのデザイナー自らが7つのトレンドについて解説していきます。次の記事では、トレンド1「 歴史的転換期」をデザインリサーチャーの伊藤が解説。お楽しみに!
筆者プロフィール
郷上 亮 / Ryo Gogami
サービスデザイナー / Service Designer
サンフランシスコのデザインファームにて新規サービスデザインやUXデザインに携わった後、Fjord Tokyoにジョイン。人やブランド、社会にとって解く価値のある問いの設定に拘ることで、世の中にインパクトを与えられるサービスの設計に従事している。趣味は高円寺での古着屋巡り。
筆者Twitter アカウント: @ryo_gogami
【連載】 Fjord Trends 2021 をFjord Tokyoのデザイナー自らが読み解く
・Trend 00 メタトレンド 「新しい領域の地図づくり」編 (本記事)
・Trend 01 「歴史的転換期」編
・Trend 02 「DIYイノベーション」編
・Trend 03 「新しい時代の組織のあり方」編
・Trend 04 「インタラクションの旅立ち」編
・Trend 05 「流動的なサプライチェーン」編
・Trend 06 「共感への挑戦」編
・Trend 07 「リチュアルの消失と創造」編
Fjord Tokyo公式Instagramアカウント: @fjord.tokyo
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