"DIYを前提としたサービスにおける「余白性」と「流用性」のデザインとは” 【連載】Fjord Trends 2021 をデザイナー自らが読み解く #02 「DIYイノベーション」編
こんにちは。Fjord Tokyoデザインリサーチャーの渡邊です。
今回は前回のトレンド1「歴史的転換期」に続き、トレンド2「DIYイノベーション」についてお伝えします。”DIY(Do it Yourself)”と聞くと、ホームセンターや工房を思い浮かべてしまいそうなこのトレンドですが、実はそうしたイメージはあながち間違いではありません。
この記事では、”DIY”と”イノベーション”に果たしてどんな結びつきがあるか、まずはトレンドの要旨を紐解きながらご紹介します。その上で、「DIYイノベーション」のキーワードとなる「余白性」「流用性」の観点から今後のサービスデザインに求められる実践について私なりに考えてみたいと思います。
DIYイノベーションとは?
ディー‐アイ‐ワイ【DIY】 《do-it-yourself》
しろうとが自分で何かを作ったり、修繕したりすること。日曜大工。ドゥイットユアセルフ。
出典: weblio辞書 デジタル大辞泉”DIY” https://www.weblio.jp/content/DIY
DIYイノベーションが指す”DIY”は文字通り「自らの手でつくる」という意味です。つまりこのトレンドの要旨を端的に示すのであれば、生活者個人によるDIYがビジネスにおけるイノベーションを拓き始めたといえるでしょう。ここで言うDIYはいわゆる日曜大工的な物理世界のものだけではありません。SNSやオンラインゲーム、ECなどデジタル世界におけるサービス提供者が想定しない利用のあり方もある種のDIYとして捉えています。
このトレンド2の背景には、無論トレンド1が示唆したパンデミックを起点とする新たな生活像の出現があります。より具体的な新しい生活像の在り方として、在宅勤務を取り上げて考えてみましょう。在宅勤務という働き方は我々生活者の住空間に、これまであまり重視されなかった「ワークスペース」というニーズを急速にもたらしました。そうした中、どうにかこれまでと変わらない勤務環境を確保するため、ダイニングテーブルをオフィスデスクに、SNSを一時的に同僚とのコミュニケーションツールに、など既存ツールの機転を利かせた転用を無意識にされた方も少なくないでしょう。オンラインの世界でも同様の転用が見られ、バトルロイヤルゲーム『FORTNITE(フォートナイト)』ではアーティストの米津玄師がライブパフォーマンスを披露するなど、ゲームという本来の目的を超えた新たな体験を届けています。
(出典: GIZMODO 『ライブではない。しかし可能性は広い。米津玄師「フォートナイト」イベントを体験して感じたこと』
https://www.gizmodo.jp/2020/08/yonezu_fortnite_report.html)
こうした転用は「その場しのぎ」と捉えることができる一方、難しい状況を切り抜けるために生活者のクリエイティビティが発揮されたとも捉えることもできます。パンデミックによって従来の生活スタイルが制限されるなか、我々生活者は身の回りの製品やサービスを一つの手段に読み替え、新たな利用目的に応じた創意工夫(DIY)を行っているのです。
一方、企業視点でこの転用を考えてみるとどうでしょう。ダイニングテーブルを製造販売したメーカーやSNSツールを提供した企業は、こうした顧客の創意工夫をどの程度考慮し製品・サービスをデザインしていたでしょうか。
企業はこれまで、顧客が抱える生活課題に対して製品・サービスをソリューションとして提供してきました。それらのソリューションは技術を中心としたイノベーションを経てアップデートされ、また新たな顧客ニーズを喚起・充足してきました。しかし在宅勤務の例に見られるように、生活が変化するなかで顧客のニーズや期待値はこれまで以上に流動的になってきています。
その結果、生活者は身の回りの製品やサービスを本来の用途とは異なる方法で転用したり、自由に組み合わせたりすることでその瞬間のニーズに合ったソリューションを自らデザイン(DIY)して始めているのです。言い換えれば、企業は今後より優れたソリューションを提供するだけでは顧客ニーズに即応しているとは言い難く、DIYする生活者のクリエイティビティを原動力としたイノベーションを考える必要があるというのが、トレンド2「DIYイノベーション」の骨子なのです。
DIYを前提としたサービスデザイン
Fjord Trends 2021(日本語版)では「DIYイノベーション」について、様々な事例を紹介しながらより詳細に説明しています。本記事ではレポート内容のスピンオフとして、『Fjordからの提案』から一部抜粋しつつ、「DIYイノベーション」の考え方を踏まえた上で今後のサービスデザインに求められる要素を「①変えやすさ(余白性) ②使い回しやすさ(流用性)」の観点から考えていきたいと思います。
変えやすさ(余白性)の設計
【 FJORDからの提案 - Think/ 考えるべきこと 】
顧客を共同制作者として捉えなおしましょう。
製品・サービスを「未完成品」としたとき、体験のどの要素を顧客と共創できるのか、また、その要素は第三者を巻き込むことで自社のビジネスモデルのエコシステム化を向上させることができるのか考えてみましょう。
使い手が使い方を読み替えることを前提とした製品・サービスは、一定の余白を持った製品・サービスと言い換えることができるでしょう。改変しづらい、もしくは一義的な使い方しか許容しないといった余白のない製品・サービスは、生活者のクリエイティビティを抑制してしまい、新たなエクスペリエンスの創出を促しません。
実際に冒頭で紹介した『FORTNITE(フォートナイト)』はバトル要素を排除したモードを提供しており、そこでは利用者がバーチャル世界で自由に交流したり、新たなオンラインイベントを開催したりと、この余白を活用しています。こうした利用者との相互作用の中で、『FORTNITE(フォートナイト)』は単なるバトルロイヤルゲームの枠を超えてデジタルプラットフォームとしての役割を果たし、新たな体験価値を生み出しているのです。企業は、このように流動化する自身のニーズに応じて新たな体験をDIYする生活者を「一人のユーザー」ではなく「一人のコ・クリエーター(共創者)」として捉えることができるでしょう。
我々Fjord Tokyoにおいてもサービス設計のプロセスとして、生活者の入念なリサーチや共創ワークショップなどを行っています。しかし「DIYイノベーション」が示唆する「コ・クリエーター」は、こうしたプロセスとしての共創から、さらに一歩踏み出したアウトプットとしての共創を指しています。つまり画竜点睛を利用者にゆだねる「未完成なプロダクト」を提供し、その余白の中で利用者のニーズに合わせた体験を完成させてもらうという立場を取ることが企業にとって重要になってきているのです。
もちろん、こうしたプロダクトの余白設計では利用者のクリエイティビティを触発する「変えやすさ」が大切です。この意味で、デザインしきれるインタラクションの範囲を超え、共創のためにデザインしきれ(ら)ない優れたインタラクション[余白]をいかに設計するか、が今後のサービスデザインにおいて重要な視点になるのかもしれません。
パーティーロイヤルは、フォートナイトの実験的で進化を続ける空間。ゆったりとリラックスしてミニゲームを楽しんだり、フレンドとコンサート、映画、その他のコンテンツを楽しんだりできます! パーティーロイヤルは撃破される心配は無用(パーティーロイヤルに戦闘と建築はなし)。安心してコンテンツを満喫しましょう!
出典: FORTNITE公式サイト
使い回しやすさ(流用性)の設計
【 FJORDからの提案 - Do/するべきこと】
プラットフォームを作り、顧客が自社のデータを活用し、自社の製品・サービスのみならず、他社のものも使って色々と試し、開発できるようにしましょう。それにより得られる副次的なデータは非常に価値あるものになります。
生活者によるソリューションのDIYは、必ずしも一つのプロダクトやブランド内で完結するわけではありません。したがって、DIYを前提とした製品・サービスはその優れた余白を生かし、必要な時に必要な形で、ブランドの垣根を問わずエコシステムを形成できなくてはなりません。具体的に言い換えると、すでにDIYされたデスクの図面を、同様のニーズを持つ別の人がさらにDIYできるよう担保するような仕組みづくりが必要です。
まちづくりシミュレーションゲームの『あつまれ どうぶつの森』では、パンデミックによる自粛期間の最中、その余白性を活かす形で様々な新しい利用シーンが生み出されました。緊急事態宣言を受けて休館したポーラ美術館は、利用者がゲーム内で作品鑑賞を擬似体験できるよう保有する絵画コレクションのデータをゲーム内で使用できる形で提供しました。こうした取り組みは、様々なファッションブランドやスポーツ団体などでも実施されました。
ここで重要なのは、任天堂が『Nintendo Switch Online』というプラットフォームを提供し、ゲームを取り巻く「余白」と「仕組み」を用意しているということです。Nintendo Switch Onlineは『あつまれ どうぶつの森』を含む任天堂ゲームソフトと連携することが可能なサービスで、第三者のブランドもしくはユーザーが作成した衣装やオブジェクトのデータをゲーム内に取り込むことができます。このプラットフォームの存在によって、『あつまれ どうぶつの森』は単なるまちづくりゲームを超えて様々なブランドとの新たなデジタル接点の一つになったのです。
(出典: ポーラ美術館 https://www.polamuseum.or.jp/acnh/)
プロダクトの余白に触発される「DIYイノベーション」のインパクトを最大化するためには、この事例のようにブランドやプロダクトの垣根を超えた「使い回しやすさ」が重要です。第三者を巻き込むデータ連携やサービス連携などプロダクトの流用性を担保することこそが、先の余白の具体要件でしょう。
つまり、人々のDIYの営みは単なる「未完成なプロダクト」からは生まれるわけでなく、あくまで機微に設計された「使い回しやすさ」の中で触発されるものです。こうした意味で「DIYイノベーション」というトレンドは、「利用者がデザインする状況をデザインする」といった、よりもメタな視点での体験設計・ビジネス設計を、今後サービスデザイナーにもとめられる重要な素養の一つとして示唆しているのかもしれません。
さいごに
最後まで記事を読んでくださったみなさま、ありがとうございました。今回はトレンド2 「DIYイノベーション」の要旨を踏まえ、「余白性」「流用性」の観点から今後のサービスデザインに求められうる実践のあり方をまとめてみました。
このようにFjord Trendsは我々デザイナーにとって単なる「流行り」を知る機会に留まらず、これからのデザインクラフトを考えるための材料の一つになるのではないかと考えています。
Fjord Trends 2021ついてより詳しくご覧になりたい方は、ぜひこちらからぜひレポートをお読みください!次回はトレンド3「新しい時代の組織のあり方」についてご紹介します。どうぞお楽しみに!
Profile
渡邊 光祐 - Watanabe, Kosuke
Design Researcher
慶應義塾大学SFC, 豪スウィンバーン工科大にてデザインリサーチ(RtD), サービスデザイン(SD)を修了後、Accenture Intercative, Fjord Tokyoにジョイン。主にエネルギーサービスや行政サービスなどのデザインプロジェクトに従事しながら、超包括的デザイン領域におけるデザイン実践について考えます。趣味は鹿島アントラーズの応援。
筆者Twitter アカウント: @ksk_wat
【連載】Fjord Trends 2021 をFjord Tokyoのデザイナー自らが読み解く
・Trend 00 メタトレンド 「新しい領域の地図づくり」編
・Trend 01 「歴史的転換期」編
・Trend 02 「DIYイノベーション」編(本記事)
・Trend 03 「新しい時代の組織のあり方」編
・Trend 04 「インタラクションの旅立ち」編
・Trend 05 「流動的なサプライチェーン」編
・Trend 06 「共感への挑戦」編
・Trend 07 「リチュアルの消失と創造」編
Fjord Tokyo公式Instagramアカウント: @fjord.tokyo
Fjord Trends 2021日本語版はこちら。
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