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アクセンチュア ソング世界50拠点の叡智を結集したテーマ「解体と再構築の始まり」とは

こんにちは、みなさん。アクセンチュア ソング デザインリサーチャーの伊藤です。

Accenture Life Trendsは、生活者の視点から社会やビジネスにおける世界のトレンドと企業がおさえるべきポイントをまとめた年次レポートです。2008年よりFjord Trendsの名で発表してきましたが、2023年からAccenture Life Trendsに改称し、世界中で活動するアクセンチュア ソングのデザイナー、ストラテジスト、また社会学、人類学、テクノロジーの専門家が、各地域での知見と調査結果を集約して作成しています。

今年度は、世界50拠点のデザイナーが行った定性的なシグナル調査と、日本を含む21カ国での定量的調査をもとに5つの重要なトレンドが導出され、全世界のデザイナーやビジネスパーソンなどに向けてグローバル版のトレンドレポートが2023年10月に公開されました。(日本語版は2024年2月29日公開)

Session by Accenture Songでは、これから3回にわたってLife Trendsの活動について紹介します。グローバルのトレンドレポートがどのように日本向けに再解釈され、その内容がどのようにして日本社会に実装されていくのか、読者のみなさんにこのシリーズを通して追体験していただければ幸いです。


より多角的な視点を取り込んだLife Trends

冒頭に紹介した通り、Accenture Life Trendsは元々Fjord Trendsとして紹介してきたデザイントレンドを改称したものになりますが、これには単なる名称変更以上の意味合いがあります。

まず、このレポートは「Life」Trendsと呼ばれていますが、アクセンチュアが提唱しているライフ起点のアプローチにおいて、このレポートが提供する生活者視点は欠かせないものです。

ライフ起点のアプローチにおいて、人々を多面的に深く理解することは実践の第一ステップであるだけでなく、シームレスで快適な顧客体験をデザインする上で、重要なスタート地点になります。

つまり、このレポートも単体で読まれるだけでなく、より良質な顧客体験を実現するための第一ステップとして、インサイトを未来のサービスやビジネス戦略策定のプロセスに繋げることを意識した名称になっています。

それに合わせて、日本のローカライゼーションのチーム編成もさらにパワーアップしました。

例年通り、デザイナーに加え、マーケティング、ビジネス、コマースなど、アクセンチュア ソング内のさまざまなケイパビリティを持つメンバーが集結しました。そして、グローバルのオーディエンスに向けたまとめられたトレンドを、単に「翻訳」するだけでなく、それぞれの視点を取り入れた上で、ときに再解釈することも含めて、より本質的なライフ起点のアプローチを行うためのコンテンツ作りを目指しました。

詳しくはこの記事の後半で紹介しますが、チーム編成がパワーアップした結果として、トレンドの紹介に加えて、昨年から日本市場に向けた提言も一緒に発表しています。

Life Trendsが示すメッセージの変遷と2024年のテーマ「解体と再構築の始まり」について

Life Trendsには毎年、その年を端的に説明する「メタトレンド」があり、2024年のメタトレンドは日本語では「解体と再構築の始まり」となっています。

ローカライズの活動にあたって、メタトレンドの解釈は非常に重要な作業です。なぜなら、それが5つのトレンド自体の意味合いを変えてしまう力があると共に、今年のトレンドの方向性を大きく形作るからです。

チーム内で意見交換を繰り返す中で、浮かび上がってきた「解体と再構築」というキーワードですが、それを語るにあたって人々がなぜこれまでの当たり前を解体し、再構築しようとしているのか。この意味を紐解き、2024年のユニークネスを見つけるため、私たちは過去5年のLife Trendsを振り返る必要がありました。

Life Trends 2024の5つのトレンドの要約と解説

Trend 1 愛を取り戻せ
10年以上にわたって貫かれてきた顧客中心主義が、企業にとって優先度の低いものに変わりつつあることに顧客は気付いている。企業は顧客が受け入れられる妥協と、長期的な関係性のために失ってはならない体験の本質とを見極めるべきである。

トレンド1は、生活者視点という意味において現在の潮流をもっとも象徴的に表すトレンドといえます。アメリカをはじめとして広がるシュリンクフレーション(Shrinkflation、価格を変えないまま商品の内容量やサイズを縮小すること)などに触れながら、緊迫した経済状況においてリソースの選択と集中による「顧客体験の微調整の必要性」に触れたトレンドといえます。

もしかしたら、部分的に顧客体験を犠牲にするような意思決定をする必要があるかもしれませんが、そうなれば顧客は企業の姿勢に対して厳しい目を向けることになります。そのような状況下では、顧客に対して真摯なコミュニケーションを継続していくことが必要となります。

Trend 2 インターフェース革命
生成AIは「検索」を「会話」に、トランザクションをパーソナライゼーションへとアップグレードした。企業はこの変化を最大限活用し、自社のブランドアイデンティティを体現する化身として生成AIを活用するべきである。

トレンド2は、日本人にとって「得意なこと」と「苦手なこと」に同時に触れたトレンドだと言えるでしょう。鉄腕アトムやドラえもんをはじめとしたストーリーに慣れ親しんできた私たち日本人にとって、機械と心が通う体験を想像するのは容易なことです。「ブランドの化身」を作ることも、アニメやキャラクターで溢れる日本においては、他国の実践方法をはるかに上回るやり方で実現される可能性もあります。

逆に、「検索」を「会話」へとシンプル化するようなインターフェースは、私たちにとって苦手なことに該当するかもしれません。機能の充実を体験に優先することで、気づかない間にユーザーにとって情報過多のインターフェースになってしまうかもしれません。生活者視点で考え、ユーザー検証など正しいステップを踏むことで、使う人から見て「余計」だと感じる機能を削ぎ落とす議論がより求められるかもしれません。

Trend 3 創造性の逆境
経済的苦境から来るを背景とした効率主義、生成AIをはじめとするテクノロジーの民主化によって、凡庸なものが溢れ、革新性へのチャレンジがしづらくなっている。そんな今だからこそ企業はクリエイティビティに再投資し、差別化に生かすべきである。

トレンド3は、3Dプリンターやレーザーカッターなど、デジタルファブリケーション文化とともに10年前ごろに現れた「モノづくりの民主化」と対比して考えてみても面白いかもしれません。デジタルファブリケーションは自分がそのプロセスに参加することで、クオリティにかかわらずモノ自体に愛着を持つことができる点が一つの特徴といえます。

今後生成AIをはじめとしたテクノロジーを企業が活用し、「まぁまぁ」なものがユーザーに届けられたとき、同じような感情を沸き起こすことはできるのでしょうか?生成AIをはじめとしたデジタル世界のモノづくりに今後求められるのは、デジタルファブリケーションのような文脈作りや意味づけであり、それがクリエイターや生成AIを活用したコンテンツを届ける企業にとって、重要なポイントになるのではないでしょうか?

Trend 4 テクノロジーの飽和点
テクノロジーは人々の予想・理解を超えるスピードで進化するようになり、それらがもたらす負の影響から自身のウェルビーイングを守る苦労を人々は強いられている。こうした状況下で、企業の責任はコンプライアンスからケアにまで広がっている。

トレンド4は、全人類の今後のウェルビーイングに関わる、今年のトレンドの中でもスケールの大きいテーマです。ドーパミンなどのホルモンの過活動を介して、私たちの脳そのものに影響を及ぼすスマートフォンやSNSのコンテンツは、「アルコールやドラックのようなものだ」と表現する欧米の専門家も存在します。

著名人でもその影響について触れることは珍しくなく、アメリカ人ラッパーJ Coleも以前インタビューの中で「SNSはやめようって思ってやめられるようなものじゃない」「10分に1回スマホをチェックしている自分が、何かの奴隷になっている感覚とちゃんと向き合わないといけない」など、スマホの中毒性を乗り越える難しさを語っています。

これだけ中毒性があり、脳に影響を与えるもので、規制がないものは他にあるでしょうか?高度経済成長期、日本社会は公害問題に直面しましたが、この問題は同じレベルの深刻な社会問題になりつつあります。そして、ただ規制に従う「コンプライアンス」を超えて、ユーザーに向けた「ケア」として向き合う必要性が求められています。

Trend 5 成功神話の解体
先の見えない世の中で、人々は長期的な人生計画の必要性を感じなくなり、かつて「人生の成功」とされたライフイベントの重要性は薄れている。企業は、より多面的で流動的になる顧客の人生の優先事項を今一度理解しなければならない。

トレンド5は、思想の多様化、社会システムの弱体化、テクノロジーの進化によって広がる選択肢など、さまざま要因によって人々の人生観が大きく変わることに関連しています。平均寿命も高く、高齢者人口の総人口に占める割合が世界で最も多い日本では、年金問題だけでなく、これからの高齢者のライフスタイルに関しても今後より議論の対象となるでしょう。

“正解”がなくなることで、新たなライフスタイルやキャリアパスが生まれ、より多様化した人生の形が出現することが予想されます。だからこそ、新たな「人生の優先事項」とともに、自分たちのユーザー像を改めて捉え直す重要性がより高まるでしょう。

日本市場に向けた提言:cLTV(顧客の体感価値)とLTV(企業の顧客生涯価値)の両立

日本企業にとってのチャレンジの向き合い方

Accenture Life Trendsのローカライズ活動では、各トレンドの翻訳に加えて、改めて日本のビジネスやデザインの文脈に沿った意味の再解釈も行なっています。

デザイナーだけでなく、ビジネス、マーケティングなどさまざまなケイパビリティを持つメンバーで構成されたチームの強みを活かし、トレンドで提起された課題や未来予測を日々のビジネス活動に組み込むための提言もその一部です。

トレンド1「愛を取り戻せ」に象徴されるように、今年のトレンドは生活者視点や顧客体験の重要性を改めて考え直すタイミングに差し掛かっていることを示唆しています。その他のトレンドもこれからの数年において重要なテーマですが、顧客体験の重要性を認知し、行動することはすべてのトレンドの前提と言えるでしょう。

この見直しのタイミングにおいて、顧客体験の重要性について議論し、頭で理解するだけでなく、経済活動に結びつけることが必要です。しかし、顧客体験を財務的価値に結びつけるような指標が存在しないことが課題です。

そこで、従来のLTV(顧客生涯価値)に加え、顧客視点により寄り添ったビジネス指標をKPIとして設定することで、目先の利益だけに捉われず、長期的な顧客体験価値の蓄積でLTVを伸ばしていけるのではないか、というのが日本市場に向けた独自のインサイトです。

その指標がcLTV(=顧客の体感価値)です。cLTVは、顧客が自社の製品・サービス利用(=顧客体験)を通じて、どれだけの価値を体感したかを可視化するものです。現在のLTVの考え方は、顧客の自社製品・サービス利用を通じて、どれだけの利益を得たかに着目していますが、cLTVと組み合わせて顧客の体感価値を組み込むことで、長期的な成長を実現する指標群となります。

目指すべきcLTVの形は企業ごとに異なってくるでしょうが、この指標をうまく活用すれば、顧客体験の重要性をビジネス活動に組み込む一つの方法となりえます。

次回は、ローカライズ活動の裏側について紹介します!

今回の記事では、より進化したAccenture Life Trendsについて紹介しました。
各トレンドの概要や日本の文脈に合わせた提言などについて触れましたが、いかがでしたでしょうか?

次回以降は、現場メンバーによるAccenture Life Trendsのローカライズ活動の裏側や、関連イベントについてご紹介します。

次回もお楽しみに!

伊藤建人 / Kento Ito
デザインリサーチャー / Design Researcher
ロンドン大学ゴールドスミス校にてデザインを学んだのち、帰国後、株式会社ロフトワークにて、新規事業のためのデザインリサーチや民間・公的機関のデザイン思考のトレーニングを担当。2020年にアクセンチュアにジョイン。顧客起点でのサービス設計を目的に、人の表層的な行動の裏にある動機や文脈を探り出し、より良い体験へとつながるインサイトを導出することが主な役割。趣味は散歩とサウナ。

Instagramアカウントでスタジオの様子をお届けしています。ぜひアカウントに遊びにきてください!: @song.design.japan

アクセンチュア ソングではデザイナーの方の採用も積極的に行っています。
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