明治安田デザインシステム Cuna:デザインの考え方・プロセス・協働をみんなで育成する仕組み。 [対談:後編] 明治安田生命保険相互会社× アクセンチュア
みなさん、こんにちは。マネジャー アクセンチュア ソング、ビジュアルデザイン担当の佐藤薫です。
前半では、デザインシステムのスコーピングとディレクションから始まり、成熟度と役割の設定、そして最初の基盤を整える「種まき」のフェーズについて説明しました。(本記事の前編はこちらから)
後半では「芽吹き」と「成長」フェーズであるデザインシステムのガバナンスとマネジメントに焦点を当て、具体的なマインドセットの設定やコミュニケーションの重要性について掘り下げます。さらに、定期的に行われるカウンシル会やデザインシステム会議の役割についても言及します。最後に、デザインシステムのスケーリングやメンテナンスに取り組む中で、今後の展開、効果検証をどのように進めていくかについて触れ、明治安田デザインシステム、Cunaの今後の展望をお伝えします。
Level.3 芽吹き:組織内で使われ始め、効果が見え始める
【※略称表記】ACN:アクセンチュア / MY:明治安田
ACN 佐藤: デザインシステムは単なるパーツの集まりではなく、全体のマネジメントやガバナンスが機能して初めてシステムとして成立します。構築する過程で成功の鍵となった要素について、増田グループマネジャー(以下GMと表記)、竹崎さんはどう思いますか?
ACN 竹崎: デザインシステムを作ること自体がゴールではなく、その先を見据える必要があります。重要なのは、関係者全員がデザインシステムの意味を理解し、新しいカルチャーを導入することの認識を共有できたことです。デザインがビジネスとシステムの中に加わるという変革をプロジェクトマネジメントメンバーが推進し、みんなのマインドセットを合わせたことが成功の大きな要因でした。
ACN 佐藤: 社内でマインドセットを浸透させるために、ツールやドキュメントを積極的に展開したことが効果を生みましたね。
MY 山本: 定期的な情報共有や勉強会を通じて、現場メンバーにもデザインシステムの目的が理解されました。MYほけんページの制作チームからも「これを取り入れないといけない」との反応があり、実際の業務に役立つものとして受け入れられ始めたことは大きな進展でした。
MY 増田GM:「お客様のために良くしよう」という共通の思いが出発点でした。お客様目線でスピード感を持って取り組み、UXコンセプトやデザイン原則を基にした進め方が成功に繋がったと感じています。
ACN 山口: 経営層にもデザインシステムが認識され、経営会議の資料にまで反映されたことは大きな成果です。作って終わりではなく、継続して実践し続けることが重要だと感じます。
MY 山本: ワークショップの写真を入れた資料も良い結果を生みましたよね。私たちの取り組みが明治安田社内に届いた瞬間でした。
ACN 山田: 最近、明治安田の上層部からも「もっとお客様に寄り添った提案をしよう」という声が増えてきました。2、3年前よりもお客様目線での改善提案がポジティブに受け取られていると感じます。
MY 山本: そうですね。マインドセットの指針をカードにして明文化したことで、お客様目線での改善がさらに進んでいます。カードがそのきっかけになっています。
ACN 佐藤: そのカードは非常に効果的でしたね。今後、さらに発展しそうなアイデアや改善案はありますか?
MY 山本: メンバーの入れ替わりや新しい参加者が増えているので、その都度見直すことが必要だと感じます。新しいメンバーにも手元にしっかり情報が届く仕組みが大事だと思います。初期メンバーが今ではチームを引っ張っているので、そのレベルを維持して次のフェーズに継承したいですね。
ACN 山口: メンバーが増えたり、プロジェクトが成長する中で指針が変わることは良いことだと思います。柔軟に対応することが重要です。
ACN 佐藤: コミュニケーションについてですが、デザインシステムに関する相談の場(ドロップイン)や、コンポーネントのアップデート情報を毎週発信しています。これ以外に、プロジェクトマネジャーとして工夫していることはありますか?
ACN 竹崎: 関係者が増えると全体の把握が難しくなります。各チームでビジネス・デザイン・システムが一体となって進めますが、チーム間で考え方の違いが出てくることもあります。問題が発生した際に運営メンバーが状況を把握し、解決策を一緒に考えることが重要です。
MY 増田GM: 健全な議論やトップとの対話を重ねながら問題解決を進めることが大事です。例えば、デザインの時間が取れないという意見もあれば、デザインに力を入れたいという意見もあります。そういった多様な意見をしっかり受け止め、会社全体の目的を踏まえた対話が重要だと感じています。
ACN 佐藤: 丁寧な対話がカルチャー変革の鍵ですね。コンフリクトは避けられないですが、対話を重ねることで進めていくことが大事ということですね。
MY 増田GM: 以前はデザインに関しての意見は社内からあまり出ませんでしたが、最近は少しずつ意見を出してくれるようになったと感じます。
ACN 山田: そうですね、今では「こうした方がもっと良くなるよ」という建設的な意見が増えてきました。ぶつかり合いではなく、建設的な議論ができるようになっているのは良い兆しです。
MY 増田GM: 営業サービスのプロダクト制作に長年携わってきましたが、今はすごく綺麗に回っていると感じます。以前はビジネス側からの指示通りに進めるだけでしたが、今では「この機能は本当に必要か?」とか「開発工数を減らせないか?」といった会話ができるようになったのは大きな進歩です。自分たちが作ったものに対するフィードバックがすぐに得られるのも大きいです。例えば、仕様変更後にビジネス側からのフィードバックを聞くと、やりがいが感じられます。自分たちの仕事が結果に結びついていると実感できるのはとても嬉しいことです。
ACN 佐藤:1年間で基盤が整い、カウンシル会でビジネスを含むステークホルダーとデザインについて話し合う機会ができました。これによって、ステークホルダーのデザインに対する理解は深まりましたか?
MY 原: はい、デザインに対する理解は深まりましたし、ハードルも下がったと思います。以前はデザイナーだけがデザインに関わるという意識が強かったですが、今は自分たちも意見を言っていいんだ、という考えが広がってきたと感じます。
ACN 山口:それは、原さんがリードしてくれるから、皆さんも自然に参加できていると思います。会議が「何かを決めないといけない」ではなく、ディスカッションの場になっているのが良いですよね。それがカルチャーに良い影響を与えています。
ACN 佐藤: 2024年上期にアクセンチュアから明治安田デザインシステムメンバーへ作業の引き継ぎをしました。その後、明治安田主導になってからのデザインシステム会議はどうですか?
MY 原: 進行スタイルは変わりませんが、皆が積極的に議論に参加するようになり、会議の内容がどんどん深くなっています。意見を出しやすい雰囲気ができたのが大きいですね。
ACN 佐藤: マスターライブラリのコンポーネントも充足してきたことで、効果検証もできるようになりましたね。昨年度の測定では、デザイン時間が34%削減され、フロントエンドの開発時間も44%削減された結果が出ましたが、実際開発スピードや品質にどんな変化がありましたか?
MY 原: 開発メンバーもデザインシステムの使い方に慣れ、手戻りが減って進行がスムーズになっています。デザインパーツを自分たちで適用できるようになったのが大きいですね。
ACN 佐藤: Storybookにもとづいて作業が進んでいるのですか?
MY 原: はい、Storybookを使い自分たちで画面の作成や修正ができるようになっています。
ACN 山口: その進展は一部のチームだけですか?それとも全体的に?
MY 原: チームによります。自分たちで進められるチームもあれば、まだ支援が必要なチームもありますが、全体的に進展しています。
Level.4 成長と収穫:成熟し、組織全体に浸透。範囲を拡大をしていく
ACN 佐藤: デザインシステム構築から3年目。内製化が本格的に始まり、デザインシステムの主導がアクセンチュアから明治安田に引き継がれましたが、今後Cunaをどのように育てていきたいか、増田GM教えてください。
MY 増田GM: 実務的には、デジタルタッチポイントを中心に広げていきたいです。概念的には、デザインシステムもUX/UI改善と同じく、ゴールはなく、常に進化し続けるものだと考えています。目標は、デザインシステムが日常的に使えるようになることです。少しずつ目標に近づいていると感じますが、マインドセットが重要なので、そこを強化しつつ進めたいです。しっかりと共通マインドセットを理解した人にデザインシステムを使ってもらうことで、さらに付加価値が生まれると思っています。
ACN 佐藤: 最後に、プロジェクトの初めから参画しているメンバーとして、始めた当初と今を振り返って何か感じることはありますか?
MY 山本: 初めは「デザインシステムって何だろう?」というところから始まりましたが、今ではしっかりした仕組みとして確立され、運用できるようになったのが大きな変化です。デザインシステムを軸にコミュニケーションが取れるようになったのも重要です。今は全体の一部に過ぎませんが、デザインシステムが全体のベースとして機能することで、より議論も活発になり、使いやすいものになると思います。
ACN 山口: 将来的には、経営会議でも「今週のデザインシステムはどうなっている?」という対話が起こり、その場でプロダクトを確認できるような環境が整えば素晴らしいですね。
MY 増田GM: はい。デザインと無縁だったシステム部で、「デザインシステム的にはどうなのか?」という会話が出てきた時は、手応えを感じました。まだまだですが、今後さらにそんな世界を目指していきたいです。また、経営視点も重要ですが、デザインシステムを作るメンバーも楽しんで進められる環境を維持したいです。若手メンバーが、自分たちが作ったものがシステムに組み込まれて感動している姿を見ると、非常に嬉しいです。みんなが主体的に関わり、答えを見つけていけるデザインシステムに育てていきたいですね。
ACN 佐藤: ありがとうございます。いろいろな面白いエピソードや貴重な視点をお聞かせいただきとても刺激的でした。今後のさらなるCunaの進化がとても楽しみです。
おわりに
2021年9月から始まったこの取り組みの成果は、2023年11月に「UCDAアワード2023」のデジタルカテゴリで「情報のわかりやすさ賞」を受賞する形で評価され、さらに2024年10月にはグッドデザイン賞を受賞しました。これは、デザイン、ビジネス、システムの3つの部門が一体となり、考え方やプロセス、コラボレーションを育てるためのセントラルハブとしてCunaが機能した結果です。
かつて馴染みが薄かった「Customer Centric(顧客中心)」思考を、明治安田はデザインシステムの導入により伝統的な業務や考え方を変革しています。Cunaを通じて、社会全体のデザインへの理解を深め、得られた知見やデザインの意義、仕組みを広く発信し、今後もこの取り組みを続けていきます。
筆者プロフィール
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