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Fjord Trends 2022が生まれたプロセス

こんにちは、みなさん。Fjord Tokyoデザインリサーチャーの伊藤です。

私は2020年にFjord Tokyoにジョインし、これまでヘルスケア領域や次世代型店舗体験・EC体験などに関するリサーチを担当してきました。

また、Fjord Tokyo / アクセンチュアの知見・見解をレポートの形で社会に発信する活動や、海外のメンバーとの協働によるリサーチプロジェクトにも多く関わっています。

そんな私が昨年夏に担当したのが、Fjord Trendsのアンバサダーという役割です。昨年末にFjord Trends 2022の英語版が発表されましたが、レポートの作成にあたっては各国のFjordメンバーが知見を集結させており、Tokyoチームもスタジオとしてトレンドの知見をまとめグローバルのメンバーに共有しています。

では、私たちFjord TokyoはどのようなプロセスでTokyoならではの知見を集約し、トレンドとして昇華させていったのか。そして、それをどのようにグローバルのメンバーに伝えたのか

プロセスの全体設計および集約の過程について、Fjord Trends 2022チームのメンバーとして活動に携わった立場からお伝えしたいと思います。

Fjord Trendsとは

読者のみなさんの中には、そもそもFjord Trendsについてあまりご存知ない方もいるかと思いますので、簡単にFjord Trendsそのものについてご紹介します。

Fjord Trendsは「世界で活躍するFjordメンバーたちが各国の知見を集結し、人々の変化とその社会や文化、ビジネスへの影響をまとめ、提言するレポート」です。2008年から毎年発表しており、今年で15回目になります。

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スタート当時は、「モバイルウェブサイトが今後より重要になる」や「モバイルでの動画コンテンツが当たり前になる」といったトレンドを発信していました。いま思えば当たり前のことばかりですが、テクノロジーのみならず、ビジネス、社会、デザインも含めたさまざまな変化の兆しが、私たちの生活をどのように変えていくかというストーリーを人間起点で語っている点は当時から変わりません。

上記の人間起点という視点に加えて、時間軸として10年や20年というロングタームではなく、3~5年というちょっと先の未来に視点を置いているのも特徴の一つ。未来すぎず、かといって現在に寄りすぎない時間軸はデザイナーやビジネスパーソンなど多くの人に「自分ごと」として捉えられ、世界中の多くの人々に読まれています。

Fjord Trends 2022始動:多様なバックグラウンドとケイパビリティが入り混じった「最強のチーム」

トレンド作成の活動において、一番はじめに行われるのはチームづくりです。Fjord Trendsは毎年有志のメンバーからなるチームが作り手となり、今年は総勢13名が参加。Fjordから3つのケイパビリティ(サービスデザイン、ビジュアルデザイン、デザインリサーチ)のメンバーと、アクセンチュア インタラクティブのメンバーが混合する、多様な視点とスキルセットを持ったチームとなりました。

それぞれ個人のバックグランドが多様なことも特徴です。男女混合であることはもちろんですが、年齢やキャリアステージ、ライフスタイルも三者三様です。また、国内のデザイントレンドに精通しているメンバーや海外での経験をもつメンバーもいます。そして、Fjord Trendsに対する経験値もさまざま。過去に何度もトレンドの活動に関わったメンバーもいれば、数週間前にスタジオにジョインしたばかりのメンバーもいました。

理由は後述しますが、トレンドの活動において多様性は不可欠なものになります。それを踏まえると、多様な視点やスキルセットが交わったこのチームは「最強のチーム」だったと感じます。

Explore:変化の兆しとなる「シグナル」を収集する

今年のトレンド活動のプロセスは、Explore→Spot→Build→Createという4つのフェーズで進めました。それぞれのフェーズでどのような考え方でどんなアクティビティをしたのか具体例も交えてご紹介します。

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Exploreのフェーズはチームとしてさまざまなシグナルを収集(=リサーチ)する期間となり、ここで得たアイデアや情報がトレンドの大きな方向性を左右するため、非常に重要なフェーズとなります

具体的には、各メンバーがニュース含めさまざまなソースから情報を収集する中で直感的に面白さや重要性を感じた「シグナル」を集めていきます。シグナルというのは、数年後のビジネス、テクノロジー、社会、デザインのトレンドにつながりそうなニュースや、新しい文化・考え方などまだ表面化していない大きな変化の「氷山の一角」のようなものだと思ってください。

そもそも各メンバーが日々異なる情報に触れていることや、独自の「フィタリング」をもってシグナルを収集していくことを考えると、こういった活動においてチームの多様性がなぜ重要なのかが理解していただけると思います。

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また、2020年から現在に至るまで、Fjordでは基本リモートワークで働いていることもあり、今年はニュース・記事などの二次情報だけでなく、自分の目や体で感じとった外の世界の情報も大事にしよう、という方針が全世界的にありました。そのため、Exploreのフェーズではそれぞれのメンバーが自身の一年を実体験と共に振り返りながらトレンドについて考えるReflectという時間も設けるようにしました。

このフェーズのメインイベントは、メンバーがリサーチから集めた「シグナル」をもとに今年のトレンドについて議論する場になります。さまざまな議論の中で個人的に印象に残っているのは、飲食店やパブリックスペースのオーナーシップの話です。

当時はレストランなどでの外食がより限られていたということもあり、「路上飲み」する人々が街に溢れたり、隠れて営業しているお店がちらほらあったりしたのは、みなさんの記憶にもあるかと思います。例えばこういった話から、「店舗とお客の関係性が変化していくのでは」といった洞察につながっていきます。このディスカッションは、Reflectという個人の体験を振り返る時間を経てこそ意義深いものになります。

このような洞察が複数集まると、それらが示唆する共通点のようなものがなんとなく浮かび上がってきます。先程の例だと<オーナーシップ・コントロール拠点の回帰・転換>というテーマが浮かび上がってきました。上記のトピックの他に、公園というパブリックな場所でより多様な活動をするようになり、多くの時間を過ごすようになったことやリモートワークでこれまでの習慣が崩れ、多くの人がより意識的に時間の使い方を考えたり、日常の中の自分のモードやシーンのセッティングを行う必要性が高まったことなども加味しています。

今回はスペースの関係でこの部分の詳細な紹介は控えますが、大量の情報の中からパターンを見出し、「テーマ」を見つけるアプローチはFjordのデザインリサーチの基本のアプローチです。

Spot:「テーマ」という鉱脈の中からトレンドを掘り出す

ここまで読んでいて、「テーマ」という言葉の出現にもしかしたら違和感を感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか。「トレンド自体の正体がまだ定かでないのに、別の横文字が出てきたぞ…」「テーマってトレンドのことか…?」など混乱を招いてしまっていたら、ごめんなさい。

ここでいうテーマは、トレンドとは違いもっと大枠の方向性を指しています。それは、トレンドという最終ゴールに向けてどの方向に進んでいくかを示すものになります。

突然ですが、仮にあなたが19世紀のアメリカ東海岸で暮らしていて、カルフォルニアでのゴールドラッシュについて耳にし「一攫千金を当てたい」と思ったとしましょう。日本の国土と同じくらい広大な土地で金脈を掘り当てるには、事前に情報を仕入れ、ある程度方向性をしぼると思いませんか?

現実の世界にインターネットも合わせた広大な情報空間に暮らす私たちにとって、数年後に来たるトレンドを見出す作業は同じくらい難しいものです。だからこそ、テーマを見つけ、ある程度の方向性をしぼってから一連の「掘る作業」をしていく(さらに深く調べたり、考えたり、議論を交わす)必要があります。当たり前ですが、このアプローチによって時間とコストが節約できます。これがFjordのデザインプロセスにおいて、リサーチが重視されている一つの理由でもあります。

今年は、Exploreのフェーズを受けて以下の5テーマにしぼりました。

・デジタルとフィジカルの主従関係の逆転(Digital World Conquers Physical World)
・オーナーシップ・コントロール拠点の回帰・転換(Taking Back Time and Sense of Control and Ownership)
・リビジョンカルチャー (Revision Culture)
*キャンセルカルチャーをうけて。キャンセルされた人が、また戻ってこられるようにしてあげるカルチャー
・バイオが体験のコアになる(Biology Becomes the Core of Experience)
・あらゆる競争において、衛生レベルがキーとなる(Hygiene Level Impacts Competitiveness in Everything)

この見つけた5つの“鉱脈”の中から、それぞれまた個人ワークで情報を調べたり、思考を巡らす1週間を過ごし、再びディスカッションの場を設けました。例えば、上述した<オーナーシップ・コントロール拠点の回帰・転換>は単なる個人の生活の枠組みを超えて、「資本主義の綻び」についての話や、現在加速化している社会的連帯経済の話題にまでたどり着きました。

ここで重要なのは、Exploreフェーズではメンバーの直感や実体験を織り交ぜながら思索を行なっていますが、このフェーズでは事実や実際に社会に起きている変化をより重視している点です。実際のリサーチボードのキャプチャ画像をご覧いただくと実際に改正された法律や人の行動を客観的に示すデータなどを元にし始めていることがわかります。

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このように、客観的で事実に基づく「左脳」的な要素と、直感および主観的な「右脳」の要素を織り交ぜながら、トレンドになりそうなもの見つけるために議論していきました。例えばその結果として、<オーナーシップ・コントロール拠点の回帰・転換>というテーマの中から、<社会的連帯経済>というトレンドの種が掘り出されました。

ここで「トレンドの種」と表現した理由は、まだ社会に向けて発信するには粗い状態だからです。すでに疑問に思った方もいるかもしれませんが、この「トレンドの種」は私たちトレンドメンバーの感覚に頼っている部分が大きかったり、そもそも見ている情報自体が偏っている可能性があります。それを批判的な視点で見直しながら、トレンドとして「精製」していくプロセスが次のBuildで行うことになります。

Build:「トレンドの種」の精製プロセス

Buildフェーズでは、5つのトレンドそれぞれに担当者を割り振り、グループで作業を行いました。このフェーズでは、トレンドがどのような「シグナル」から読み解かれているかという情報を整理すると同時に、そのトレンドを実証する「エビデンス」となるような事例やデータを集めながら、トレンドのネーミングや意味について考えていきます。

具体的なプロセスは、私が関わった<信頼できるコミュニティ(Trustful Community)>を参考にしながら紹介していきます。このトレンドの種は、<リビジョンカルチャー (Revision Culture)>というテーマから出現したものでした。議論の中では、近年見られるキャンセルカルチャーをはじめとした炎上の舞台にもなる、誰にでも開かれたオンライン空間と対比して、当時ブームもひと段落したClubhouseなどの招待制SNSに代表される閉じたオンライン空間が話題に上がりました。

また、オンライン空間での「安全」というトピックから、TinderがユーザーのUberでの評価(レーティング)を公表するという連携に見られるような「信頼レーティング」などについても着目しました。それにより、そもそもオンライン上での評価・評判などをリバイズ(=再編集)する以前に、「どのように信頼できるコミュニティを作っていくか」ということがトレンドとして重視するポイントになりました。

「信頼できるコミュニティ」に関して、グループの中ではオンラインとリアルの信頼をそれぞれ想像している人がいました。リアルのコミュニティについてはRNAや腸内細菌などによる人の信用度のスコア化が話題に上がっていたものの、そのような事例が実際のサービスなどで見られることはありませんでした(しかもちょっとディストピアのにおいがします)。

一方で、あえて物理空間のような制限が設けられたデジタル体験を提供する、Dispo、Gravity、Poparazziなどの新たなSNSの事例や、コロナ禍での生活様式もあいまって「SNS疲れ」に関するデータは多く見られました。それにより、最終的にこのトレンドはオンラインでのコミュニティに特化した内容となり、進化したSNSの誕生により、より信頼できるオンラインコミュニティが生まれていくという趣旨で<SNSルネッサンス(Social Media Renaissance)>という名前がつけられました。

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使い捨てカメラから着想を得た次世代写真SNSアプリ「Dispo(ディスポ)」
(出典:tubefilter https://www.tubefilter.com/2019/12/26/david-dobrik-disposable-camera-app/

Create:選び抜かれた言葉とイラストによるストーリーテリング

Createのフェーズでは、Buildで収集したエビデンスやトレンドの内容をグローバルメンバーにプレゼンする時に使用するポスターに落とし込んでいきます。これまでのプロセスはポスターに掲載すべき内容をすべて用意できるようにデザインされています。そのため、Createでは最後の仕上げの作業としてエビデンスの取捨選択やトレンドの内容を説明するテキストを編集しながら、再びどのようなトレンドだったか振り返りながら調整していきます。

トレンドのストーリーをまとめていくのですが、ここまでの多くのリサーチと議論を簡潔にまとめるのは簡単な作業ではありません。しかし、このストーリーを紡いでいく作業によってトレンドで一番重要となるキーメッセージがよりクリアになっていきます。

また、ポスターで非常に重要なのがビジュアルです。グローバルメンバーにトレンドポスターをプレゼンする時間はわずか90秒しかないので、自分たちが考えている内容や世界観が直感的に伝わるように工夫する必要があります。そのため、詳細を話すことがなくても、イラストやビジュアルからトレンドの要旨が伝わるようにする必要がありました。

[1] Fjord Trends 2022(Tokyo studio) - Biology becomes the core of the experience のコピー

トレンドのプレゼンは、Fjordのグローバル共同統括Martha Cottonをはじめとしたグローバルチームに向けて行われます。Tokyoスタジオは、中国、ASEAN、オーストラリア、ニュージーランドと同じAPAC(アジア太平洋)の枠でプレゼンをしました。今回は5つのトレンドの中から3つのトレンドを選定し、私もその1つをプレゼンさせていただく機会をもらいましたが、90秒ですべてを伝えなくてはいけないプレッシャーと、錚々たるたるメンバーを目の前にし、人生ではじめて自分の名前を間違えるほど緊張しました。笑

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グローバルメンバーへのプレゼンが終わったあとは、無事に終わって一安心という気持ちと、これまで時間とエネルギーをかけてきた活動が90秒のプレゼンで幕を閉じてあっけなく感じる、少し不思議な気持ちだったことを覚えています。

トレンドとは何か:ただの未来予測でない、「姿勢」としてのトレンド

ここまで、私たちFjord Tokyoのチームが社会の中のさまざまな「シグナル」からいかに「トレンド」を見出したか、順を追ってご紹介してきました。最後に、このトレンドにかける想いを紹介させていただければと思います。

突然ですが、みなさんは『姿勢としてのデザイン』という本をご存知でしょうか。著者は、ニューヨーク・タイムズ紙や『frieze』誌などのデザインコラムを手がけるデザイン評論家、アリス・ローソーン。バウハウスの元教員モハリ=ナジの言葉を引用しながら、いかにデザインが《変革の主体》として現代社会でより影響力を持つことができるかということを紹介しています。

“いくつもの顔を持つデザインだが、それは一貫して「世の中に起こるあらゆる変化—社会、政治、経済、科学、技術、文化、環境、その他—が人々にとってマイナスではなくプラスに働くように翻訳する《変革の主体》としての役割」を担ってきた。” 引用:『姿勢としてのデザイン 「デザイン」が変革の主体となるとき』

今回Fjord Trendsのアンバサダーとして、そしてTokyoチームのメンバーとしてトレンド活動に関わり、「世の中に起こるあらゆる変化」を翻訳し、ストーリーを紡いでいくことこそ、トレンドの本質だと感じました。

だからこそ、なるべくバイアスがないように作る一方で、Fjord Trendsには私たちの社会に対する「姿勢」を示す部分があると思います。なぜなら、「翻訳」には必ず私たちの解釈が入るからです。そしてFjordのそれは、人間中心主義・生命中心主義に基づいた翻訳であり、さまざまなテクノロジーや新たな文化をいかに私たちにとって良いものにできるかという姿勢が根底にあります。

さいごに:みなさんの声を聞かせてください

現在スタジオではFjord Trends 2022日本版の制作を進めており、間もなく発表を予定しています。今年のトレンドも読み応えがあるコンテンツとなっており、みなさんにトレンドを共有し、どのような反応をいただけるか、いまから楽しみにしています。

トレンドの本質は、議論を収束させる「答え」でなく、議論を広げる問題提起としての「問い」的な性質にあると思っています。トレンドを読んでいただいた、みなさん一人一人が抱いた感想や意見が社会の中で議論を広げていく。それによって、日々互いの「答え」が更新されていく。そうやって磨かれていったお互いの「答え」を付き合わせ、さらに議論を深めていく。

その議論の輪の中に、私たちも参加することができたら嬉しいです。みなさんの声を聞くことを楽しみにしています。

それでは。

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伊藤建人 / Kento Ito
デザインリサーチャー / Design Researcher
ロンドン大学ゴールドスミス校にてデザインを学んだのち、帰国後、株式会社ロフトワークにて、新規事業のためのデザインリサーチや民間・公的機関のデザイン思考のトレーニングを担当。2020年にFjord Tokyoにジョイン。顧客起点でのサービス設計を目的に、人の表層的な行動の裏にある動機や文脈を探り出し、より良い体験へとつながるインサイトを導出することが主な役割。趣味は散歩とサウナ。

Fjord Tokyo公式Twitterアカウント: @Fjord_Tokyo
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