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【対談】 「情熱が価値を創る」 - スタートアップと語る、個人クリエイターの経済圏

こんにちは。Fjord Tokyo プログラム・マネジャーの本間です。

2021年8月31日(火)夜に『WIRED』日本版とアクセンチュア・ベンチャーズが共同開催するウェビナーシリーズ「WIRED Startup Lounge - THE ART OF INNOVATION - 」の第二回が開催されました。当ウェビナーではテーマに沿ったスタートアップの経営陣をゲストに招き、アクセンチュア社員と議論を行います。

第二回のテーマは個人が中心となる新しい経済圏、「クリエイターエコノミー」Fjord Tokyoの共同統括グループ・デザイン・ディレクターであるエドアルド・クランツが登壇し、クリエイターエコノミーを支えるスタートアップ創設者と共に、新しい経済圏の実態について語り合いました。当記事では、イベントの様子をレポートします。

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「クリエイターエコノミー」とは

Fjord Trends 2021」で発表された7つのトレンドの一つ “DIYイノベーション” でも説明されたように、近年は企業が完成させた製品やサービスを一方的にユーザーに提供するだけでなく、ユーザー側の創意工夫で新たな価値を共創するというパターンが見られます

例えば、オンラインゲームの Fortniteがアーティストと共創しライブ会場としての新たな価値を創出したり、音楽配信プラットフォームのSpotifyがユーザー作成のポッドキャスト配信プラットフォームとしての機能も果たすなど、ユーザー側による創意工夫が可能な「余白」を残す企業が増えています。 “DIYイノベーション” については以前の記事でも詳しく紹介していますので、ぜひご覧ください。

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クリエイターエコノミーは、これらユーザー側のクリエイティブ活動が創り出す新しい経済圏のことを指します。個人クリエイターが中心となるこの経済圏は、クリエイターの収益化を支援するプラットフォーマーとの二人三脚で成り立つという特徴があります。

クリエイターの収益化を支えるスタートアップ

今回のイベントでは、クリエイターエコノミーのプラットフォーマーに当たるスタートアップ2社の経営陣に登壇頂きました。

お一人目は、アーティストのライブ配信付き電子チケットプラットフォームとして有名なZAIKOを運営する ZAIKO株式会社取締役COOのローレン・ローズ・コーカーさん。大手レーベルも個人アーティストも平等に扱い、個々のアーティストが直接ファンと繋がり収益化できる手法と仕組みを提供しています。

お二人目は誰でも簡単にネットショップを開設できるSTORESをはじめ、お店のデジタル化を支援するSTORES プラットフォームを展開するヘイ株式会社取締役CPOの塚原文奈さん。個人や中小企業のオーナーを中心に、デジタルリテラシーの低い方でも手軽に初めて続けられるデザインに力を入れられています。

アクセンチュアからは、ロボットスタートアップの設立経験もあるアクセンチュア インタラクティブ兼アクセンチュア・ベンチャーズ プリンシパル・ディレクター林智彦と、Fjord Tokyo 共同統括グループ・デザイン・ディレクターのエドアルド・クランツが登壇。普段あまり交わることのない組み合わせで語られた、クリエイターエコノミーの動向について紹介します。

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「情熱」から生まれるビジネスの重要性

塚原:「私たちの会社では『 Just for Fun』というミッションを掲げ、こだわり・情熱・楽しみによって駆動される経済を作る事を大切にしています。例えばあるオーナー様で、リーバイスの501が好き過ぎて、廃棄されてドロドロになった501をロサンゼルスで大量に買い付けた方がいらっしゃいました。その廃棄されたジーンズを洗って加工して自分達で付加価値をつけて販売されているんですね。このように内から湧き上がる情熱に尽き動かされる形でのお商売を支援する会社でありたいと考えています。」

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林:「最初は自分の情熱に突き動かされてものづくりを始められた方でも、事業を拡大するためには『売れるためのものづくり』に転換する必要がある、という点についてはどう考えますか?」

ローレン:「売れるものを作ろうとすると、長く続けられないと思います。特に弊社ZAIKOが支援している音楽業界は流れが激しく、誰でも浮き沈みがあります。ピークを過ぎた後は特に、本当に音楽が好きじゃないと続けられないですよね。音楽性を変えずとも、今は収益化する方法が色々とあります。オンラインライブ後に少人数で会話ができるアフターパーティーチケットを用意したり、アルバムのリスニングパーティーを開催するなど、試行錯誤しながらファンとの関係性を大事にしているクリエイターが将来伸びていくと思います。」

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(ZAIKO株式会社取締役COO ローレン・ローズ・コーカー)

塚原:「様々な物やサービスで溢れている現代では、売れるものを作るという姿勢では続かないですし、辛いんですよね。外の情報から作られたものより、内から湧き出てくるものなら続けられると思うので、そこが一番尊いという話は弊社でもよくしています。」

誰もがクリエイターとして稼げる時代。真の民主化が始まっている。

塚原:「ワクワクして自分の情熱を燃やし続けて頂ける様に、弊社ではテンションが上がる UIUXを設計する様にしています。弊社のプラットフォームは、クリエイターさんにとっての道具です。例えば美容師さんが良いハサミを持っていたらテンションが上がるように、私達が提供する道具も、テンションが上がってワクワクするものになってほしい。SaaS系のB2Bサービスには分かりづらい複雑なUIUXが多いと言われますが、できる限りワクワクする管理画面を作る様にしています。また、リテラシーが高くない方でも続けて頂けるよう、電話によるサポートも充実させています。」

ローレン:「個人クリエイターがビジネスを行うには、プラットフォーマーによる支援が欠かせません。マーケティング・販売・カスタマーサポートなど多くのタスクをアーティスト一人で行うには限界がありますし、そもそも販売システムをゼロから作ろうとしたら大変です。データ管理や決済システム運営には強い責任が伴いますし、イベントの中止があればチケットの払い戻しなども行わなければなりません。

その様なオペレーションの一部を私達のようなプラットフォーマーが代行する事で、1+1=5のような相乗効果を生み出す経済圏はこれからも大きくなると思います。最近は技術の事が分からなくてもアプリやECを作れるようなノーコードのプラットフォーマーもたくさん出てきていますよね。プラットフォームの力を借りれば、今まで様々な理由でチャレンジが出来なかった人にもチャンスが回ってきます。」

エドアルド:「オペレーションをプラットフォーム側にアウトソースする事により、クリエイターは自分の情熱を注げる活動に対して多くの時間を注げるという事ですね。その情熱が顧客に届いてファンを増やし、そのファンの声に応えて更に進化していく。とても望ましいフィードバックループが生まれますね。」

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(Fjord Tokyo 共同統括グループ・デザイン・ディレクター エドアルド・クランツ)

先進的なクリエイティブと収益性のバランスを保つには

WIRED:「現時点では経済的な価値になりにくい、先進的なものを生み出そうとしているクリエイターが埋もれないためには、どうすべきか?という質問が来ています」

塚原:「一般的に有名では無くても驚く様な販売能力があるオーナーさんもいらっしゃるので、やり方次第だとも感じます。特にデジタルネイティブ世代では、SNS含めて見せ方が上手で、ニッチな領域でも世界中のファンを獲得できているケースも多いです。

また、収益性を担保するためにはあまり先を行き過ぎず、半歩だけ先を行くという考えも必要かもしれません。弊社ではシェアリングエコノミーの流れが来るよりもかなり前に車の個人間のカーシェアリングサービスを立ち上げてうまくいかなかった経験があります。未来を見据えながらも、半歩先のサービスにすることで、ビジョンを伝えながら収益性も保つというバランスが取れるのでは無いでしょうか。」

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(ヘイ株式会社取締役CPO 塚原文奈)

林:「僕個人の経験からも、『アートからビジネス5年説』があると考えています。アートとして続けていくなら別に収益源を確保した上で少数のファンを作っていくやり方もあります。ただし、より多くの人が新しいことを受け入れるようになるには大体5年程かかるイメージで、それを乗り切るのがすごく難しいんですよね。その時代を諦めずに試行錯誤しながら続けられると、先行者としてやっていける印象があります。また、個の時代にはそのような転換期に対して、ファンによる投げ銭が投資の役割を担う様な事もあるかもしれませんね。」

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(アクセンチュア インタラクティブ兼アクセンチュア・ベンチャーズ プリンシパル・ディレクター 林智彦)

終わりに

今回のイベントに登壇頂いた2社に代表されるように、近年は様々な領域のプラットフォーマーが個人を中心としたクリエイターの新しい収益化方法を提供し始めており、クリエイターの経済圏も拡大しています。個人がクリエイターとして稼ぐことにある程度のリテラシーや実績が必要とされた黎明期も終わり、誰もがクリエイターとしてのビジネスに挑戦できる時代になってきたと言えるでしょう。今まで経済的価値がなかったものにも価値がつく時代。自分が情熱を注げる分野を見定めた上で、気軽にDYIイノベーションを実践してみてはいかがでしょうか

*当イベントのWIRED版レポートへのリンクはこちら

筆者プロフィール

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本間 美夏 / Minatsu Honma
プログラムマネージャー / Program Manager
システムエンジニア、ITコンサルタント、デンマークでのデザイン留学を経てFjord Tokyoにジョイン。デザイン/ビジネス/エンジニアの領域を横断した体験設計に興味があります。好きなもの:舞台芸術・建築・歴史
筆者Twitter アカウント: @minatsuhom


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