「創造性の逆境」攻略の鍵を考えるイベント、Beyond Designer。実施背景と当日のトーク内容についてご紹介
前回の記事(アクセンチュア ソング世界50拠点の叡智を結集したテーマ「解体と再構築の始まり」とは)から引き続き、アクセンチュア ソングにおけるトレンド活動をご紹介します。
今回はAccenture Life Trends 2024のトレンド3「創造性の逆境」に焦点を当てたトークイベント、Beyond Designerについてご紹介します。
Beyond Designerは、(なぜアクセンチュア ソングがイベント活動に取り組むのか。で紹介した)イベント活動Live Session@Song Studioの一環として、Designshipさんと共同のもと、2024年4月12日に@Accenture Song Studios Tokyo 9Fで実施されたものです。
国内外で活躍するデザイナーを招聘し、ゲストによるキーノートスピーチやパネルディスカッションを行いました。また、このイベントでは来場者がリアルタイムで反応を会場内に共有できるような仕組みも用意し、パネルディスカッションでは来場者のQ&Aも積極的に取り入れながら進めました。
今回の記事では、このイベント開催にいたる経緯や実施にあたっての狙い、そして実際のイベント内でのキーノートスピーチやパネルディスカッションでの議論内容について、簡単にご紹介したいと思います。
Beyond Designer、実施の狙い:「グローバル視点」について
Beyond Designerには、「グローバル視点」と「創造性の逆境」という2つの大きなテーマがあります。
アクセンチュア ソングは、世界50カ所に2,000人以上のデザイナーが所属する組織です。東京オフィスにも海外で活躍した経験や留学経験があるデザイナーも在籍しています。私たちは、グローバルな視点を日本のデザインに取り入れることは、「日本のクリエイティブやデザインコミュニティの発展に貢献」できる方法の1つだと考えています。
日本のデザインコミュニティが発展するには、アクセンチュア ソングや今回のようなイベントでのデザイナー同士が交流する機会儲け、日本発のデザイナーを生み出すきっかけに貢献するのも必要でしょう。そのため、本イベントでは海外から学び、日々の活動に活かすだけでなく、海外のデザイン業界の実態を届け、来場者の将来のキャリアプランについての視野を広げることも大きな目的となっています。
「グローバル視点」でのイベントと聞くと、海外の先端事例を次から次へと紹介するものが想像される
でしょうか。しかし、生活者の環境やビジネスにおける文脈が異なる海外の先端事例をそのまま日本における日々の活動に転用することは簡単なことではありません。
そのため、海外からの事例やインスピレーションを、日本のデザイン界にも当てはまる「切り口」を伴って考える必要があります。それが2つ目のテーマである「創造性の逆境」です。
Beyond Designer、実施の狙い:「創造性の逆境」について
改めて、今年のトレンドの1つである「創造性の逆境」について振り返ってみましょう。
このトレンドの英語タイトル「Meh-diocre」は、海外の社会背景も含めて現代の「創造性の逆境」の姿を表すタイトルとなっています。
Meh-diocreは「平凡で、可もなく不可もない」といった意味を持つ単語である、Mediocreをもじったものになっており、この言葉が世界中すべてのクリエイター、デザイナーにとって致命的な形容詞であることは説明するまでもないと思います。
一方「Meh(メ)」は、人気アニメ『ザ・シンプソンズ』から端を発し、今ではアメリカにおける国民の政治への絶望などといった気分を表す言葉として広まりつつある言葉でもあります。
つまり、このタイトルの背景には、単に昨今のクリエティブ業界に対するネガティブな見方を超えて、人々(オーディエンス)の無関心な気持ちも表現されています。作り手にとっては、「Meh(メ)」と無視されるほど、悲しいことはありませんよね。
イベントにおける3つの重要な問い
トレンド本文では、その原因に関しては「効率主義の考え方」や「流行をコントロールするテクノロジー」について触れています。
創造的な活動を企業の経済活動の中に組み込むことは重要なことです。しかしながら、それを効率化するために「人を2倍にするから、2倍の速度で作ってくれ」と言われて実践できるほど単純ではないのが創造的な活動の特徴だと思います。
もしくは「予算が半分になったから、半分の時間で作ってくれ」と言われたらどうなるのでしょうか。トレンド本文に触れられているように、「大胆に想像力を膨らませることよりも、過去に成功したやり方を繰り返す」ということに共感できるかもしれません。
テクノロジーに関しては、データ・アルゴリズム・プラットフォームで成り立っているトレンドに着目すれば、人々や社会に与える影響力を想像できるかもしれません。
イベント当日も紹介したように、ストリーミングの影響でヒット曲が短くなることや、SNSでアルゴリズムに選ばれやすくなるショート動画など、私たちの日常の中にもその影響力を見ることは難くありません。
テクノロジーや企業活動自体に罪はありませんが、現在の効率主義やテクノロジーが先導する流行によって、Awesomeなものの数は変わらない一方で、Averageなものが溢れることが懸念されています。これは、Accenture SongのNick LawがCAnnesLions2023で紹介した重要なアジェンダです。
以上のような背景を受けて、Beyond Designerでは以下の3つをイベントにおける大きな問いにしました。
Martin Dowson FRSAによるキーノートスピーチ「Designing Beyond the Prompt」
マーティンさんは、デザインリーダーシップコーチと自分の役割について述べています。これまで英国を中心に多くの人々にデザイン思考やサービスデザインのトレーニングを提供し、CDOや非デザイン領域のエグゼクティブの方に対しては、デザインを使った組織変革やその有効活用方法に関するアドバイスも提供してきました。
英国ロイズ・バンキング・グループ初のスペキュラティブデザインチームを立ち上げた当事者でもある彼は、サービスデザインやスペキュラティブデザインといった先進的デザインアプローチを大手企業の組織の中で輝かせることのできるスペシャリストです。
今回のテーマである「創造性の逆境」では、ビジネス的成功とデザインの創造性を両立させることが一つの重要なポイントです。さまざまな組織の中でそれを自ら実践し、そのノウハウをCDOや役員向けにコーチングしてきた経験を持つMartinさんに、現在の逆境について話していただきました。
まずMartinさんからは、1960年代に一時代を築いたBraunやPhilips、そしてIBMのデザインについて触れながら、それらの企業が出すデザインがいかに流行に流されず、フォルムと機能を兼ね揃えた、市場でも魅力のあるデザインを出してきたかということについて紹介していただきました。
Appleなど、現代のプロダクトにも多大な影響を与えたそのデザインは、当時の「良いデザインがビジネスに良い影響を及ぼす」という強いビジネスの礎に成り立っていたものでした。スピーチの中では、1966年にIBMのCEOが実際に書いたメモ、「GOOD DESIGN IS GOOD BUSINESS(良いデザインは良いビジネスにつながる)」という言葉が紹介されており、大変印象的でした。
Martinさん曰く、「80年代から90年代にかけて、グローバル化によって企業の利益がより広範囲の地域からもたらされるようになったことや2000年以降のインターネットやテクノロジーの発展により、プロダクトを中心とした物理的な制約から切り離されたデザインは、急速な人口拡大の影響でより早く、多くの利益を生むようにシフトしていった」とのことです。
また、ホールアース・カタログの創刊者スチュアート・ブランドの考案したフレームワーク「Pace Layering for design」についての紹介は、観客の方にも深く印象に残るものだったようです。スピーチ終了後には、「これからの将来、より変化のペースが速まっていく時代において、デザイナーはデザイナーとして呼ばれるべきか」といった将来のデザイナーとしての役割について触れるような疑問にもつながりました。
現在のビジネス環境では、利益を迅速に最大化し、幅広い地域で競争力を保つことが求められています。この中で、現代のデザインはデジタル化の傾向もあり、私たちの作業プロセスも速さが不可欠です。しかし、今日のデザインプロセスにおいては、単に速さだけでなく、時には人々を取り巻くシステム全体を考慮するような、より包括的な視点が求められます。
「Pace Layering for design」では、変化が遅いレイヤーの影響力にも着目することを想起させてくれます。このレイヤーでは、インフラや組織行動、文化、社会などの要素が含まれており、変化が緩やかであるため、人々の行動やニーズを根深く組み込まれているものを深く理解することが重要です。理解することで、変化の実感が速いレイヤーに惑わされることなく、適切に変化を促進しリードしていくような行動が可能となります。そのためには、より包括的なデザインプロセスが必要になってくることでしょう。
イベント後半戦は、来場者も巻き込んだパネルディスカッション
イベントの後半戦は、パネルディスカッションに先駆けて、ゲストのSound Couture代表の大河内さんと、アクセンチュアソングのビジュアルデザイナー佐藤薫が、それぞれのクリエイターとしてのルーツや現在の仕事について紹介するセッションを行いました。
元々、TVアニメの制作チームで経験を積み、その後ファッションイベントに関わる音楽制作や自身の楽曲作成などの活動を経て、エンターテイメント業界での音楽制作の経験を積んだ大河内さんは、その経験とスキルをベースに2006年にSound Coutureを設立。会場では、過去に制作した音を流しながら、独自のサウンドデザインの考え方とアプローチをケーススタディと交えてご紹介いただきました。
レストランや店舗といった場に訪れた人々が、目に見えない形でもブランドの世界観を感じることができるために音を「設う(しつらう)」[r6] Sound Couture。そのサウンドは、ブランドの世界観やスタイルが反映するだけでなく、場に訪れた人々の居心地を、それぞれの場での体験に合わせて微調整する役割があります。
アクセンチュア ソングのビジュアルデザイナー佐藤は、デザインシステムやUIのビジュアルディレクションなどを中心に、デジタルプロダクトのデザインを中心に活躍しています。
「元々、自身のルーツはロンドン留学時のコラージュにあります。ミシンを使ってビジュアルを縫い込むようなデザインや、複写機などを実験的に扱った制作活動をしていました。」と、社内のメンバーも知らなかったようなルーツから現在のデジタルプロダクトに関わるようになった自身のキャリアパスについて共有しました。
パネルディスカッションでは、「AwesomeなものとAverageなものとの違い」や、サウンドデザイナー、ビジュアルデザイナーそれぞれの立場から「現在のAIをはじめとしたテクノロジーの発展の中で、デザイナーの役割がどのように変わっていくか」を中心に創造性の逆境に関するトークが展開されました。
会場は、アンケートや投票がリアルタイムでできるメンチメーターを通じて来場者の方が自由にQ&Aを投稿できるようになっていました。多くの人の興味をひいたのか、サウンドデザインに関する質問が殺到することに。
中でも「サウンドデザインの予算規模」から、「異なる場所での音の差別化方法」に関する質問が目立ちました。
大河内さんは、「音の差別化に関しては、ブランドやコンセプトにゆかりのある音(たとえばその建物で使われているマテリアルなど)を使用したり、フィールドレコーディングなどを通じて、そのブランド独自の音を作り上げることができる」と説明しました。
また、会場のプロダクトデザイナーの方からの「サウンドがターゲットに届いた、手を握れた感覚みたいな感覚があれば教えてください」という質問には、Sound Coutureがクライアントや店舗のスタッフとSNSのメッセージグループをつくり、日々のコミュニケーションを密に行っていることを紹介。スタッフから、「いまお客さんから音が褒められました!」といったようなリアルタイムでお客様の声が届くこともあるそうです。
Martinさんのスピーチで紹介された「Pace Layering for design」における最も変化が遅い自然の要素が、フィールドレコーディングにおいて差別化のポイントになるという話が非常に興味深かったです。また、デザインに触れるエンドユーザーとの対話が重要である点も、顧客理解の重要性と重なっていると感じました。変化の激しい時代だからこそ、不変の要素に注目し、テクノロジーの進化にもかかわらず、クリエイティブにおける「人」の重要性を再確認しました[r8] 。
おわりに
今回は、Accenture Life Trends 2024のトレンド3「創造性の逆境」に焦点を当てたトークイベント、Beyond Designerについてご紹介しました。
私たちアクセンチュア ソングでは、Accenture Life Trendsをただ世に発信するだけでなく、それを実装するための取り組みを行うことも非常に重視しています。今回のイベントは、その一環として国内外のゲストを招いて、トレンドについて私たちなりの視点で考える機会となりました。
今後は、イベント活動だけでなく、よりAccenture Life Trendsを日本のビジネスやデザインに対してより良いインパクトが生み出されるように、私たち自身も実践していくつもりです。
まだAccenture Life Trendsを読まれていない方も、もう読まれた方も、ぜひそのインスピレーションを元に何か新しい一歩を踏み出して頂けたら幸いです。その使い方には正解、不正解はありませんので、このトレンドを一緒に世の中で育てていくことができたら大変嬉しいです。
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アクセンチュア ソングではデザイナーの方の採用も積極的に行っています。
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